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《スタッフコラムNo.29-2》建築の都 シカゴの街歩き(後編)- Written by Tomoko

2024.05.03

シカゴの街を建築物を中心にご紹介する第二弾です。

シカゴはMidwestと呼ばれる米国の中西部(地図的には米国の中央北部)に位置する都市で、カナダとの国境にある五大湖のひとつ、ミシガン湖に面しています。ミシガン湖は大きすぎて向こう岸が見えないので、感覚としては海辺の町のように感じられます。

シカゴの絵ハガキ(Photo: D. Maenza)

シカゴは緯度的には日本の北海道に近く、冬は外に出ると鼻の中が凍るような氷点下の厳寒、雪も積もるほど降り、特に風がある時には体感温度がさらに下がります。外出時には帽子、マフラー、足元までの長いダウンコート、防水ブーツ、手袋などを着用し、頭のてっぺんから足先まで厳重に防寒具でくるんでヨチヨチ歩くしかありません。

またシカゴは別名「風の街」(Windy City)と言われるだけあって風が強く、傘なんかさそうものならメリーポピンズのように飛んでいきそうになります。地元民はよく「どこそこの交差点は特に風が強くて危ない、角に立ってボヤボヤしていると風に押されて車道に転がり出るから気を付けなさい」などとまことしやかに語ります。

シカゴの絵ハガキ(Photo: P. Valdez)

そんな気候が厳しいシカゴですが、それだけに暖かい時期のシカゴはアウトドアを楽しむ解放感にあふれた人達でにぎわいます。

シカゴ建築財団の提供するシカゴ街歩きツアーもそんなアクティビティのひとつです。私も参加してみて、意外にも地元シカゴ人の参加が多いことに驚きました。ツアーで出会ったあるおじさまは「大学生の頃からシカゴに住んでいるが、休暇には旅行に行く代わりに地元で観光客のするようなことを体験してみることにしている」と言っていました。自分の住む街をいつもと違う目で見てみるという楽しみ方かもしれません。(東京で「はとバス」に乗ってみるようなものでしょうか。)

シカゴの建築を紹介する徒歩ツアー(Photo: Chicago Architecture Center)

では、そんな街歩きツアーで見つけたシカゴの建造物をいくつかご紹介しましょう。

 

| シアーズタワー

言わずと知れた、シカゴのスカイラインを象徴する建物。建設当時は「世界一高いビル」であったシアーズタワーですが、その後その地位を明け渡すことになりました。それでも暫くは「西半球で一番高いビル」だの「頂上のアンテナを入れればまだ一番高い」だのと頑張っていましたが、そうこう言っているうちにどんどん抜かれ、今ではもう米国内に限っても「一番高いビル」ではありません。また、ビルの所有者が変わり、名前も「シアーズタワー」ではなくなってしまいました。

 

| シカゴ商品取引所

世界最古の取引所の一つ、シカゴ商品取引所が入っている超高層ビル。ここでの取引価格は、特に小麦・大豆・トウモロコシの国際相場に大きな影響があります。いわゆる「シカゴ相場」というもので国際的な指標になります。農産物の取引を中心に発展してきた歴史を象徴するように、建物の時計台には小麦とトウモロコシを持った人物が彫り込まれ、建物の頂点には農業をつかさどる女神像が立っています。

この建物を含むツアーに参加した時、以前このビルの「シカゴ商品取引所」で働いていたという男性も参加していたのですが、「長年ここで働いていたが毎日遅刻しないようにとばかり気にしていて建物のことなんか考えたことがなかった」と感慨深げでした。

 

| トンプソンセンター

何だか街中に降臨した巨大な宇宙船みたいですが、これでも州政府のオフィスでした。外見もさることながら、建物内部の構造もまた変わっています。至る所スケスケで部屋にはドアも壁もなく、中が丸見えなのです。

このデザインは「市民に開かれた政府」という理念を表したものでした。ただ、その崇高なメッセージ性はさておき、冷暖房の効率は悪いわ雨漏りはするわで、使い勝手は良くなかったようです。

ここは私も運転免許証の更新等で訪れたことがあったのですが、そんな高尚なデザインだとはツアーで聞くまで知りませんでした。この建物は、最近民間の大企業に買い取られて州政府はお引越ししたそうです。

 

| ティファニー

「マーシャルフィールド」という米国では老舗の高級百貨店があり、シカゴの大通り沿いにその旗艦店がありました。今は「メイシーズ」に名前が変わってしまいましたが、そのシカゴ店の一階化粧品売場で上を見上げると、高い吹き抜けの天井にティファニーがデザインした巨大なモザイクドームがキラキラと広がっています。アートガラスを百万片以上使ったその作品は、ティファニー最大の作品とも言われます。

これをツアーで案内された時、十人ほどのツアー参加者が百貨店の中で団体で立ち止まり、一斉に上を見上げている光景は奇異なものだったにちがいありませんが、もちろん周りに同じことをしている人はいませんでした。この百貨店に何度も買物に来ている人の中でもこのティファニードームを知っているのは少数派だろうと思います。ガイドさんも「生まれも育ちも生粋のシカゴ人だが、ガイドになるまでこのことを知らなかった」と言っていました。

シカゴには他にもティファニーがデザインしたアートガラスのモザイク作品を擁した建物があり、「ティファニー」をテーマにしたツアーが組まれているほどです。

 

| プリツカー・パビリオン

ミシガン湖に面する「ミレニアム・パーク」という公園にある野外音楽堂。まるでアート作品のようですが、正面奥にある巨大な金属のリボンで囲まれた部分にステージがあり、リボンが構造的に音を前面に押し出す作りになっています。そこから手前に続く頭上の交差パイプにはスピーカーが取り付けられていて、ステージから離れた芝生席でもキレイな音が聞こえます。夏にはここで様々な音楽フェスティバルが開かれ、芝生でレジャーシートを広げてくつろぎながら音楽を楽しむことができます。(しかも芝生席は無料!)

 

| パブリックアート

先ほどの“宇宙船”トンプソンセンター前の広場に立っているのがジャン・デュビュッフェ作の巨大な彫像です。「起立した野獣へのモニュメント」(Monument with Standing Beast)という立派な名前があるのですが、地元の人は「スヌーピーをブレンダーに入れた」(Snoopy in a Blender)と呼んでいます。

もうひとつ、人気のパブリックアートがこの丸っこくてツルツルした銀色に輝く巨大なオシリのようなものです。先ほどの野外音楽堂と同じく「ミレニアム・パーク」という公園にあるアニシュ・カプーア作のオブジェなのですが、「雲の門」(Cloud Gate)という正式な美しい名前があるにもかかわらず、地元民は愛情をこめて「お豆」(The Bean)と呼んでいます。

表面がステンレスでピカピカに磨きあげられていて、鏡のような曲面にシカゴの摩天楼や鑑賞者自身の姿が歪んだ像になって映し出されます。オブジェの底部がアーチ状に少し凹んでいて下をくぐることができ、オブジェに近づいて表面を触ることもできます。

マルク・シャガール作「四季」
パブロ・ピカソ作「無題」
アレクサンダー・カルダー作「フラミンゴ」

シカゴには他にもパブリックアートの作品が多く、ピカソやシャガールなどの作品が街角の公共の場所に置かれ、自由に見ることができます。シカゴには世界三大美術館のひとつと言われる「シカゴ美術館」がありますが、街中でもアート作品を楽しめます。

 

| 番外編: 映画の舞台としてのシカゴ

先ほどご紹介した「シカゴ商品取引所」の建物は、映画バットマンの再起動シリーズ、「バットマン・ビギンズ」や「ダークナイト」で見覚えがあるという方もいらっしゃるかもしれません。

実はシカゴは映画の撮影スポットとしてもよく使われる街で、古くは「ブルースブラザーズ」や「アンタッチャブル」などが有名です。

個人的に、シカゴの街並み紹介という意味でおすすめの映画は「レイクハウス」(イルマーレ)です。物語は、シカゴの病院で医師として働く女性と、近郊の小さな湖のほとりに建つ家で暮らす建築家の男性が、パラレルワールドのように違う時間を生きながら不思議なポストを介して手紙をやりとりしているうちに心が通い合うという恋愛映画です。女性の日常としてシカゴの街角が映し出されたり、男性が建築家としてシカゴの建物を巡るお散歩コースを考えて女性に解説したりと、建築の都としてのシカゴの魅力がにじみ出る映画です。

「スパイダーマン2」ではシカゴの高架鉄道が印象的です。この作品では、疾走する高架列車の上でスパイダーマンが敵と戦う場面があり、敵がブレーキを壊したため列車が暴走を始めます。その暴走する列車をスパイダーマンがどうやって止めて乗客の命を救うかが手に汗握る場面なのですが、ここで高架線路に沿って密集して並び立つ建築物が役に立つことになります。映画上の設定ではニューヨークが舞台なのですが、ニューヨークの都心には現役の高架鉄道がないので、この場面に限っては実際の撮影はシカゴでおこなわれました。これはまさにシカゴの繁華街で林立する高層ビルに両脇を挟まれながら列車が高架上を駆け抜ける場面なのです。

シカゴ高架鉄道“エル”(Photo: Rosana Scapinello)

なお、シカゴの高架鉄道(兼地下鉄)は開業以来100年以上の歴史があり、地元民から「L」(エル)と呼ばれて生活の足として親しまれています。この「L」をテーマとしたツアーも提供されており、列車に乗りながらシカゴ都心の建築群を俯瞰で見ることができます。

開業して間もない頃の“エル”(Photo: Chicago Architecture Center)

シカゴの高架鉄道といえば、「あなたが寝てる間に…」という映画もありますね。シカゴの鉄道で改札係として働く女性が、クリスマスイブの日にホームから線路に転落して気絶してしまった男性を間一髪で助けて恋に落ちるロマンティックコメディーです。冬景色のシカゴの街並みも素敵です。

おうち時間派の方はぜひ映画でシカゴの街を体験してみてはいかがでしょうか。

スタッフTomoko