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《スタッフコラムNO.29-1》建築の都 シカゴの街歩き(前編)- Written by Tomoko

2024.04.19

春もたけなわ、暖かい日差しに誘われてコートを脱ぐと、身軽になって外にお出かけしたくなりますね。でも遠くへ旅をするほどの時間も余裕もない、という時には住んでいる街を探検してみるのはどうでしょうか。

私がシカゴで暮らしていた頃、シカゴの中心街に「シカゴ建築財団」という非営利団体があり、シカゴの街を探索できる「街歩きツアー」が色々なテーマやエリア別で用意されていました。ツアーにもよりますが、時間は約二時間、参加者は十人前後で、特別な訓練を受けたガイドさんが参加者を引き連れてうんちくを語りながら街を歩き回って案内してくれるのです。

Photo: Chicago Architecture Center

見慣れた街を歩いて何か面白いことでもあるの?と思われるかもしれませんが、これが意外に発見の連続なのです。例えば、街の建物は普通、何か目的がある時に行くものですが、建物の中にあるもの(店舗やオフィス)の機能は意識しても、建物自体にはあまり注意を払わないものです。そんな建物にも歴史や逸話があるのですが、建物にはラベルや説明書きが付いてこない。だから誰かに教えてもらうまで知らないことが多いのです。

シカゴの街歩きツアーはそんな空白を埋めるのに最適の方法でした。実際、この街歩きツアーの参加者の二割ほどは地元シカゴの人達で、残りは米国の他州や外国から一時的にシカゴを訪ねて来ている人達でした。

もっともシカゴには地の利があります。というのも、シカゴは「高層建築の都」と呼ばれるほど近代建築が発展した都市で、様々な年代や様式の建築物が一堂に会しているのです。フランク・ロイド・ライトやミース・ファン・デル・ローエといった有名な建築家もシカゴを拠点に活躍していました。これは1871年に起きた「シカゴの大火」と呼ばれる大火災で当時の街の大部分が焼失してしまったという不幸な出来事を契機に、みなで力を合わせて復興しようとしてきた流れの中で起きたことなのです。

そういうわけで、シカゴの街で鑑賞する建築物には事欠きません。実際、シカゴ建築財団は「シカゴの街は博物館である」と宣言しています。つまり、シカゴの街自体が一大博物館であり、そこに立つ建築物等は博物館の展示物であり、公共の屋外にあるので誰でも鑑賞できるのです。

Map: Chicago Architecture Foundation

その鑑賞を手助けしてくれるのが、街歩きツアーのガイドさんです。ツアー中の解説の内容は、建築財団が求める最低限の水準をクリアしていなければなりませんが、コメントの台本が固められているわけではありません。各建物について言及すべき骨子の上に、ガイドさんが自分で自由に肉付けをしていくのです。ですから、同じテーマのツアーに二回参加しても、ガイドさんが違うとまた違う内容を楽しめます。

また、私が参加した当時は「ハッピーアワーツアー」というのがあり、それに行くとツアーの最後に参加者みんなでツアー終点地近くのバーに行って、好きなドリンクを一杯無料で飲める券が付いていました。まだ明るい時間帯、人もまばらな静かなバーに座って歩き疲れた足を癒し、ホッと一息ついて喉をうるおしながら、ガイドさんや他の参加者の人達と話をするのも楽しい時間でした。

ちなみにシカゴ建築財団が提供するツアーには、徒歩で巡るものだけでなく、船に乗ってシカゴ川沿いの建築物を見るものもあります。もちろん船のツアーも専門のガイドさんが同乗していて解説付きなのですが、私は個人的には徒歩ツアーの方が楽しめました。

実は船のツアーは気候の良い夏には大人気で(冬は寒いのでお休み)、暑い時期に涼し気な水辺で船に乗って爽やかな風に吹かれながら川を下り、目の前に次々とパノラマのように現れる建築物を眺めるのは心地よいものです。

Photo: Chicago Architecture Center

でも一時間半の船ツアーの間には紹介すべき建物が川沿いに何十もあるものですから、ガイドさんも忙しい。船は一定の速度で進んでいって止まってくれませんから、分刻みで解説しなければならず、時間に余裕がありません。参加者の方からガイドさんに話しかけたり質問したりする隙間がなく、一方的に流れてくるコメントを聞くだけなので、どうしても受け身になってしまいます。

一方、徒歩ツアーは参加者の数も少ないのでガイドさんとの距離も近い。建物と建物の間は歩いて移動しますから、その間にガイドさんとも自由に話ができます。時には即興でシカゴにまつわる建築や建築家の面白エピソードを話してくれることもあります。ツアーの道中で興味があればちょっと立ち止まったり探検したりする時間もあり、参加者のペースに合わせてくれる柔軟性があります。

もっとも徒歩の場合は自由度が高すぎて、ツアーの途中で参加者を失うこともまれではありません(笑)。写真を撮るのに夢中になったり、マーケットで買物を始めたり、百貨店の化粧品カウンターで美容部員のお姉さんにつかまってメイクされたりと、理由は様々ですが、私が参加した徒歩ツアーでは途中で徐々に脱落者が出て、気づいたら最後には半数にまで減っていたということがあり、「サバイバー」みたいになっていました。

徒歩によるツアーは鑑賞する建物との距離が近いのも利点です。船では川沿いの建物が通り過ぎていくのを船上から離れて眺めるだけですが、徒歩だと建物の近くまで寄ったり、触ったり、中に入ったりすることができます。

 

●近くで見る

この石積みのビルは16階建てなのですが、建物の重さを支えるために土台の厚さがとんでもないことになっています。道に面している地上一階の窓枠に近づくと、その凹み具合から壁の厚さが実感できます。(Monadnock Building)

 

●体感する

放物線形の高層ビル。この建物まで来た時、ガイドさんが「背中を壁にもたせかけて上を見てみて」と言いました。建物のふもとに立ち、曲面の外壁に背中をつけて見上げると・・・ゆるやかにカーブする建物の曲線が視覚と触感の両方で体感できます。(Chase Tower)

 

●触る

市民センターとして市や郡のオフィスが入っている一見何の変哲もなさそうなビルですが、赤茶色の外観は「コルテン鋼」という特殊な鋼鉄に由来します。この鋼鉄は大気にさらされると自然に薄い錆の膜ができ、その錆が保護膜となって、より浸食性の高い錆が発生しないようになるのです。外壁に近づいて見るとうっすらと粉を吹いたようになっていて、触ると指にオレンジ色の錆がついてきました。(Richard J. Daley Center)

 

●中に入る

劇場と大学が入っている建物。中に入っている劇場自体も歴史的に価値のある建造物で、独自の劇場ツアーもやっていました。でもガイドさんが案内してくれたのは、劇場側とは別にある大学側の建物入口。そこから大学のロビーに入り、正面の大きな石造りの階段を上がり、踊り場から上を見上げると・・・フランク・ロイド・ライトがデザインしたアートガラスの窓がありました。ロビーから直接は見えない場所にあるので、ガイドさんに教えてもらって階段を上がらないと見つけられないのです。(Auditorium Building)

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というわけで、私のおすすめは色々な楽しみ方ができる徒歩のツアーなのですが、次回はそんな街歩きツアーで見つけたシカゴの建造物をいくつかご紹介したいと思います。

スタッフTomoko